インド旅行記(8)今回の旅は2勝8敗?
ずっと絶食していたので、実に三日ぶりの食事であった
危うくダマされる!
翌日は、インドで過ごす最後の一日。
デリーのメインバザールを散歩することにした。
バザールの露店を冷やかしながらぶらぶら歩いていると、地面に敷いたゴザの上で、おばちゃんが小さな円筒形の包みをたくさん並べていた。
「コレはお香かな?」
と近づくと、おばちゃん、ヘナだと言う。
「おおっ!最近日本でも時々耳にするヘナか?」
「いったいどうやって使うのか?」
と聞くと、
「まぁまぁそこに座らんしゃい」
と、オレを腰掛けさせ、おばちゃんは、息子らしき男を呼んできた。
男はオレのTシャツの腕をまくると
「タダだ、心配するな!」
と言って、その円筒形の包みの底からヘナを絞り出して、オレの腕に模様を描き始めた。
どうやらヘナタトゥー(入れ墨)というやつらしい。
オレは少し心配になって、もう一度聞いた。
「ホントにタダか?」
「タダだ!」
男は実に巧みな技で、オレの腕に見る見るうちに精巧なハワイアンデザイン(…と男が言っていた)を描いていった。
くどいようだがもう一度聞いた。
「ホントにタダか?」
「もちろんタダだ!」
待つこと、およそ五分。
オレの腕には見事な幾何学模様のヘナタトゥーが出来上がっていた。
すると最後に、男は模様を指差しながら、こう言うではないか。
「ココからココまではタダだ。だが、ココから先は有料なので150ルピー払え!」
「オイオイ、話が違うぜ!タダって言ったじゃないか!」
オレは、少しオーバーに怒り、椅子から立ち上がるとそのまま立ち去った。
もちろん一ルピーたりとも支払うことなく、、、
「あぶない、あぶない。少し気を緩めるとこうだ。」
でもタダで腕にタトゥーが出来たので少しトクをした気分になった。
(ホテルに戻り、ヘナタトゥーをスマホで撮る)
今回の旅は2勝8敗?
「今のはオレの勝ち!」
、、、と、心の中で勝利に浸ったが、実は今回の旅全体を通してみれば、2勝8敗ぐらいでオレの完敗だったような気がする。
インドでは、三輪タクシーに乗るのも、土産物一つ買うのも一苦労。
先方は平気で途方もない値段をふっかけてくるので、こちら側も最初はその十分の 一ぐらいを主張する。
するとだんだんと相手がマケて来て、、、
途中、こちら側が交渉決裂にして立ち去ろうとすると「待て待て!」 と引き止められる「儀式」が間に入る。
最終的に、最初の値段の三分 の一か四分の一ぐらいで折り合いがつく。
それでもしたたかなイン ド商人の事だ、影でほくそ笑んでいるかも知れず、オレのカンジでは 、今回はせいぜい2勝8敗、むしろ完敗に近かったな、、、という気がするのだ。
50代の身体であえて挑んだインド旅。
計画通り旅を進めようとするオレに対してまず「想定外の大洪水」という、強烈な右ストレートが浴びせられた。
かろうじて立ち上がると、今度は「風邪と下痢」というダブルパンチ。
これでオレは、完膚なきまでに打ちのめされて、マットに深く沈んでしまった。
最後はちょっとだけ立ち直り、プチヨガ修行が出来たけど、、、
20代と30代で、かつて2回放浪した時とは違い、さすがに50 代でのインドは体力的にも相当キツイものがあった。
(デリーのメインバザールで、モモ(チベット風水餃子)とトマトスープの食事。)
「50代には50代にふさわしい旅のスタイルがあるんじゃないの?」
「50代で、20代みたいなハードな旅をするなんて、遥か昔に過ぎ去った青春時代のノスタルジーにしがみつこうとしているだけじゃないの?」
そんな内なる声も聞こえてくる。
いったいオレは、いつまでバックパッカーをやり続けるのだろう?
でも、これだけは言える。
インドの旅は、他のどこの国の旅とも違う、特別なもの。
物質文明に囲まれて生活するうちに、いつの間にか眠らせてしまった、自らの「野生」というものを、心身の奥からガツンと呼び覚ます、刺激的な旅なのだ。
(おしまい)
(シヴァの瞑想。旅の途上で描き始め、下痢と発熱で中断していた絵がようやく完成。シヴァ神の頭上には人の顔があって、口から水を吐き出してる。この水がガンジス河になるのだそうだ)