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2018-03-06

インド旅行記(7)ローカルバスは「動く劇場」?

デリーへ戻る
 
オレは、ヨガの世界的な聖地リシケシで、3日間のプチヨガ修行を終えた。
 
本当はもう少しこの町にいたかったのだが、洪水の影響による道路状況が心配だったので、予定より早めにデリーへ戻ることにしたのだ。
 
朝、ホテルをチェックアウトして、デリー行きのバスに乗るために、バスターミナルまで移動した。
 
ガンジス河の支流の川原ではあちらこちらで、人々がしゃがんで朝の用足し。いかにもインド的な風景だ。
 
 
(奥の方の河原では、人々は用を足す場所を探してウロウロ)
 
デリーまではローカルバスで、7時間ほどかかる。
 
外国人専用の、エアコンが効いたツアーバスに乗れば、速いし快適だろうが、そんなのはつまらない。
 
庶民の息吹を間近に感じながら旅をするのが、オレの流儀なのだ!
 
と、息巻いて、オレはデリー行きのオンボロローカルバスに颯爽と乗り込んだ。 
 
 
(ターミナルで、バスを待つ女性たち)

 

出発までだいぶ時間があるのか、車内はまだガラガラ、一番乗りだった。

 

オレは窓際の席を確保した。

 

「やったぜ特等席だ!」

「窓の風景を眺めつつ、のんびり昼寝でもするか、、、」

 

オレはひとりほくそ笑んだ。 

 

 

(最初は窓際の席に座っていたのに、、、)

 

徐々に人が増えてきた。

 

しばらくすると、初老の夫婦が乗車して来たと思いきや、

 

「わしら夫婦だけんね。アンタあっちへ移りな」

 

、、、って言うような事を、わめき散らし、オレは無理やり3人がけの席へ移動させられた。

 

「けっ、オレの方が先なのに、なんて図々しい夫婦なんだ、、、」

 

「まぁ3人がけだけど、窓際だからいいか、、、」オレは渋々納得した。

 

ところが、である。今度は中年女性3人組がドカドカと乗り込んで来た。

 

オレは悪い予感がした。

 

「どいたどいたわしら3人組じゃけん、アンタ向こうへ移りな!!」

 

中年女性3人組は恐ろしい形相でオレを睨んだ。

 

「そそそっ、そんな、オレが先なのに、、、」

 

哀れな異邦人は、そのキョーレツな眼力に圧倒され、すごすごと後ろの方の席に移らざるを得なかった。

 

「ゲゲゲっ、もう窓際空いてないじゃん(泣)」

 

一番乗りしたはずなのに、気がついたら、オレは通路側の席で、インド人に周りを囲まれて身を縮めるように小さくなって座っていたのである。

 

「せっかく早く乗り込んで窓際の席をゲットしたのにぃお前らは外国人旅行者に対する気遣いはないのか

 

オレは心の中で叫んだが、日印関係に支障をきたしてはならないので、表面的には終始友好的な笑顔を振りまき続けたのであった。

 

ローカルバスはまるで「動く劇場」

 

バスには次々とへんな輩(やから)が乗り込んで来るので、7時間の長い道のりも、まったく飽きることがなかった。

 

まるで劇場で面白いショーでも見てるようだ。

 

それでは、このショー?の一部をご紹介しよう。

 

1、バスに乗り込んできた中年女性が、突然通路に立ち、ダミ声で何やら演説を始めた。

 

短い演説が終わると、通路を歩いて乗客から寄付を募り始めた。

 

その顔を見てギョッとした。

 

ダミ声の主はサリーをまとっていたが明らかに男だったのである。

オカマちゃんの人権を守るためのNPO活動に違いない(と、オレは勝手に解釈した)

 

2、突然、ある町で、つぎはぎだらけの汚れた服の少年が乗り込んで来た。

 

土ぼこりにまみれた顔から判断すると物乞いらしい。 

 

少年は、ポケットから二枚の長方形の小さな板を取り出すと、カスタネットのように巧みに操ってリズムをとりながら唄い始めた。

 

貧しい身なりとは裏腹に、少年の歌はとても美しかった。

 

その哀愁を秘めた旋律に感動したオレは10ルピーを渡した。

 

3、大きな袋を小脇に抱えた男が、袋から薬瓶を取り出すと、通路に立って高らかに口上を述べ始めた。

 

いわゆるガマの油というやつだろう。

 

「この薬をひと塗りすりゃあ、ほらこの通り、、、」(と、でも言っているのだろう)

 

その巧みな語り口に誘われてか、結構多くの乗客が次々とその薬らしきものを買い始めた。

 

4、サリーを着た若い女性が乗り込んで来て乗客に何やらチラシを配り始めた。

 

ヒンドゥー語で書かれているのでチンプンカンプンだが、牛と農家らしき建物の絵がそえてある。

 

女性が、自分で描いたのだろう、実にヘタな絵だ。

 

彼女は、チラシを配りつつ何かを必死に訴えている。

 

その哀れみを誘う眼差しを見て、オレは、

 

「この女性の家族は、村の領主の不当なる振る舞いにより、飼っていた家畜をすべて失って、生活に行き詰っているんだな、、、(ホンマかいな?)

 

と、勝手に解釈して、女性に10ルピーを手渡した。

 

 

こうした手合いは、どこからともなくバスに乗り込んで来ては、目的を達すると何処かで降りてしまう。

 

運賃を支払っている様子は見受けられないので、バス側は容認していると見える。

 

オレの側からすると、バスの通路というステージにまるで次々と演者が登壇しているようで、実に面白かった。

 

話は変わるが、インド人は初めて乗り合わせた見知らぬ客同志でも、まるで旧知の間柄でもあるかのように、互いに打ち解けて話し込んだり、食べ物を融通し合ったりしている。

 

 思い返せば、我が日本国でも、昭和の中頃まではローカルバスは庶民の足の主役で、いたるところにこのような光景があったはずだ。

 

それがいつしかマイカーという「動く個室」にとって代えられ、バスからは次第に庶民の匂いが無くなって行った。 

オレは、デリーへ向かうローカルバスの車中で、終始インド庶民の放つパワーに圧倒されつつも、日本が経済発展と引き換えに失ったものを思い、少し寂しい気分になった。

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