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2019-07-23

スペイン旅行記 アンダルシアの白い町とゲルニカ

コトのはじまり

オレは、ある日、同じ画家仲間である障害者のM(脳性マヒ)の母親から、次のような依頼を受けた。

「ウチの息子は、不自由な身体だけど、ずっとピカソに憧れて絵を描き続けてきた。」

「一生に一度でいいから、息子にホンモノのピカソの絵を見せてやりたい…」

つまり、Mをスペイン旅行に連れて行き、ホンモノのピカソの絵を見せてやってほしい…という依頼だ。

スペインで“モノホンのピカソ”と言えば、あの誰もが知っている名作「ゲルニカ」を見るっきゃないでしょう!

 

Mはふだんは車椅子に乗っており、手足が自由に動かないけど、若い頃からずっとピカソのような芸術家になることを目指して、画家の先生について学んできた。

それにMの家は、静岡でも有名なスペイン料理店を経営しており、色々とスペインとは縁が深い家柄だ。

 

ここは、老いたるMの母親の切なる願いを聞き入れるのが、男気(おとこぎ)というものでしょう。

「わかりました!引受けましょう!」

オレは、カッコ良く二つ返事で快諾した。

…でも、ショージキに言えば、義侠心というより、

「ヒコーキ代からホテル代まで、すべて出すから連れて行ってほしい…」

という言葉にクラリとなったのだが…。

 

悪評高きヒコーキ会社?

オレたちが使ったのは、その頃

「安い、ボロい、サービス悪い」

…と、旅行者の間ではめっぽう評判が悪かったアエロフロートロシア航空。

(今はずいぶん改善されたけど。念のため)。

Mの甥も含めたオレたち3人は、日本を旅立った後、マドリード行に乗り換えるため、モスクワの空港に降り立った。

さて、ここでの乗り換えがひと苦労だった。

当時のモスクワ空港は、エレベーターが無く、どこもバリアフル(階段や段差ばかりで車椅子では動き辛いこと)。

車椅子に乗ったMを、まるでロシアの農夫のようないかつい空港職員が数人がかりで担いで、長い階段をいくつも登ったり下りたり。

マドリード行のヒコーキに乗り込む際も、Mは車椅子ごと、荷物を持ち上げる巨大なフォークリフトのような車で高く持ち上げられたのだった(怖かった!)。

 

ラ・マンチャの風車とアンダルシアの白い町

オレたちは、首都マドリードは最後の楽しみにとっておき、空港でレンタカーを借りて、まず、ドン・キホーテ(日本中アチコチにある、あの激安店ではないよ。念のため)で有名な、ラ・マンチャ地方へと向かった。

ラ・マンチャは、茶色く乾いた大地の上に、ドン・キホーテが突進したという白い風車がいくつも立ち並び、「いかにもスペインへ来た!」という風景だ。

ところで、オレはこれまで何度もヨーロッパでレンタカーを運転しているんだが、イギリスやドイツといったゲルマン系の国とは違い、スペインやイタリアといったラテン系の国では、特に運転に気を使う。

ラテン系の人たちは、キホン

「アモーレ(恋して)、カンターレ(歌って)、マンジャーレ(食べて)…」

要するに「人生楽しけりゃ、それでいい!」

…という人種なので、運転の方もノリノリだ。

ドイツなどの、勤勉で実直なハンドルさばきとは、かなり違う。

おまけに、こちらでは、左ハンドルに右手でクラッチ操作。

(欧州ではオートマ車レンタカーはほとんどない)

ワイパーとウィンカーの操作も逆。

こうした基本操作に慣れるだけでも精一杯なのに、まわりをラテン人のノリノリ運転に囲まれた時にゃあ、もう冷や汗ダラダラもんだ。

それでも、オレたちは、何とか事故ることなく、イベリア半島を南下して、あの紺碧に輝く地中海、コスタ・デル・ソル(太陽海岸)に辿り着いた。

ここには、M憧れの、あのピカソが生まれた街マラガがある。

ピカソの絵にも影響を与えたであろう青い海を眺めながら、今度は一路西へ。

オレとMは、グラナダでアルハンブラ宮殿を見て、コルドバでは本場のフラメンコを堪能。

その後、白い家々が立ち並ぶ美しいアンダルシア地方へと至った。

 

パラドールに泊まる

アンダルシアの白い町のひとつ、ロンダでは、パラドール(貴族の邸宅などを改築した高級ホテル)に泊まった。

ふだんは、ベッドに蚤やシラミがわいているような安宿しか泊まらないオレにとって、「パラドールに泊まることなんて夢のまた夢。一生ありえない!」

と思っていたのに…

オレたちは、一夜かぎりの貴族になった気分で、パラドールのレストランで、アンダルシア名物のオックステール(牛の尾)に舌鼓を打ったのであった。

 

ついにピカソの名作に対面!

アンダルシア地方のセビリアから、空路でマドリードまで戻った。

そしてマドリードの美術館で、ついにMは憧れのピカソの名作「ゲルニカ」に対面したのだ。

まず驚いたのは、「ゲルニカ」の大きさとその迫力だ。

「ゲルニカ」と言えば、あのダビンチの「モナリザ」と並んで、学校の教科書ではお馴染みの絵なんだが、実物を見るまでは、こんなにも巨大だとは思いも寄らなかった。

教科書の写真で見るかぎりでは、「モナリザ」も「ゲルニカ」も同じような大きさなのに、実際見てみると「ゲルニカ」の方は、「モナリザ」の何十倍もある。

「やっぱ、絵はナマでみるもんだなぁ~」

Mとオレは、心から感嘆したのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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