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2019-09-22

万里の長城でトレッキングして野宿してみた(2)

かなたに待ち受ける謎の男の正体は?

オレは、万里の長城のどこかでひとりで野宿するつもりで、ひたすらテクテク歩き続けた。

2時間も歩き続けると、すっかりまわりは山、山、山。

人の気配がまったくなくなった頃、かなたに薄汚れた身なりの怪しげな人影が見えた。

「すわっ!強盗か!」

オレは思わず身構えた。

助けを呼ぼうにも、まわりには誰もいない。

「もしナイフを突きつけられたら、まずリュックを投げつけて城壁から飛び降りよう」

「その後、あそこの茂みへ向かっていち目散に走ろう…」

もうそんなことまで考えているオクビョーなオレだった。

ところが、意外にも男はニコニコと友好的な笑顔をふりまきながら、オレに近づいてきた。

男の片手にはミネラルウォーターと万里の長城の絵葉書が…

「な~んだ、単なる物売りか(笑)」

その後も歩き続けると、ところどころに、このような山賊か?浮浪者か?物売りか?見分けのつかないビミョーに怪しげな男や女が、次々とオレを待ち構えていた。

それにしても、こんなに観光客が少ない(…っていうかオレ一人だけ)山中でミネラルウォーター一本売って、ホンマに商売になるんかいなぁ~

たぶんよっぽどヒマか、それとも仕事がないんだ。

半分納得、半分同情しながら次第に日暮れていく中、ひとりトボトボと長城を歩き続けるオレだった。

今夜の野宿ポイントを探す

「さぁ、そろそろ日も陰ってきたことだし、今晩の野宿ポイントはどこにしようか?」

長城というのは、ずっと城壁ばかりが続いているわけではなく、適度な距離ごとに砦のような構造物がある。

たぶん、見張りの兵士たちが、寝たり、休んだり、風雨を避けたりするためだろう。屋根がついていて、周りがぐるりと壁に覆われていて、壁には見張り用の穴が開いている。

野宿するには、こうした砦の中が最適だ。

ところが、そうは上手く行くはずがなく、砦の多くはもはや半分廃墟と化していて、屋根さえ崩れてなかったりする。

そんな中、かろうじて原型をとどめており、屋根がしっかりある砦が見つかった。

「よしっ、今晩の宿はここに決ぃめたぁ~」

次第にあたりが薄暗くなってくる中、オレはそそくさと寝床の準備を始めた。

長城の砦で野宿する

石の床は固くでゴツゴツしていて寝心地が悪いので、銀マットを敷いた。

その上に寝袋を広げて、最後にツェルト(簡易テント)を設置するつもりだった。

・・・が、ツェルト(簡易テント)を張るためのロープを結ぶところがどこにも見当たらない。

まわりはすべて石の壁で、ロープをひっかける出っ張りのようなモノがどこにも無いのだ。

仕方なくオレは、テントを張るのをあきらめて、寝袋に入った上からツェルトをかぶって寝ることにした。

気がつけば、もうあたりは漆黒の闇。

自分の手も見え無いほどの闇だ。

小さなヘッドランプのか弱い光を頼りに、オレはパンとバナナだけの簡単な夕食を済ませた。

さてと、、、こんな暗闇の中じゃあ、メシを食ってしまうと、あとは何もやることが無い。

あまりに暗くて本も読めやしない。

寝るしか無いのだ。

ふてくされたオレは、寝袋にくるまって眠りにつくことにした。

時計を見るとまだ夜の7時だ。

幼児でもあるまいし、こんな早い時間から眠れるはずが無い。

ニンゲン誰しも、眠れないとなると思考はネガティブな方向へ向かうもので、

「たぶん何百年も前にここらで戦争があったんだろうなぁ~」

「いっぱい人が死んだんだろうなぁ~」

「どこかに死体も埋まってるんだろうなぁ~」

ゲッ!匈奴の亡霊が出てきたらどうしよう(汗)」

そんなこんなで、オクビョーなオレはなかなか寝付けなかったのだ。

夜中にヒタヒタと足音が!

それでも知らぬ間にオレは深い眠りに落ちた。

いったい何時間眠ったのだろう。

静まり返る闇の中、ヒタヒタと近づく足音で、オレは突然目が覚めた。

「いったい何者だ!」

「山賊か?それともホントに匈奴の亡霊が出たのか!」

ヒタ、ヒタ、ヒタ…

その足音は城壁の上を、オレが野宿している砦へ向かってだんだん近づいてくる。

「ヤバい、南無阿弥陀仏…南無阿弥陀仏…」

オレは暗闇の中、身を固くして、必死に念仏を唱え始めた。

ヒタ、ヒタ、ヒタ…

ついに足音の主は、オレが野宿している砦の中に入った。

オレは息を止めて身構えた。

次の瞬間、その足音の主は、 オレの存在には気付かず、そのまま砦の中を通り抜けて行った。

通り抜ける際に、話し声が聞こえた。

足音の主は、二人組の中国人(たぶん)男性だった。

物好きにも、深夜に長城をトレッキングしていたのだろうか?

それとも、長城の監視員か?

まさか、ホントに匈奴の亡霊?

このことがあってから、オレは、匈奴の亡霊が気になって、夜明けまで眠れなかった。

夜がしらじらと明け、コケコッコー!とどこかで一番鳥が鳴いたときは、マジで救われた気がした。

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