いちばんお気に入りの場所
これまで随分と色々なところを旅してきた。
アジアやヨーロッパ、南北アメリカを中心に、国の数にすると50カ国に達する。
そうした国々の中で、他人から「最も気にいった場所はどこか?」と聞かれた場合、ヒマラヤの麓やイギリスの湖水地方、スペインのアンダルシア地方などと共に、私はいつも、エーゲ海に浮かぶサントリーニ島の名前を挙げることにしている。
サントリーニ島とは?
サントリーニ島は、エーゲ海の真ん中あたり、キクラデス諸島に属する三日月形の島である。
かのプラトンによれば、遠い遠い昔のこと、この地に伝説のアトランティス大陸があり、それが火山の大爆発で滅び、かろうじて残った外輪山の一部が、このサントリーニ島であるらしい。
そんな神秘的な伝説を秘めたこの島に、私はこれまでに3度訪れている。最初は独りで、2度目は妻と、そして3度目は妻の両親も加わっての旅であった。
中でも最も印象深いのは、最初の旅である。
ドイツからアルプスを越えてイタリアに入り、長靴のような半島をかかとの部分まで南下した後ギリシアに渡り、エーゲ海の島伝いに船でトルコまで渡る3週間の旅であった。
アイランドホッピング
そもそもこんな旅を思いついたのは、かつてイタリア旅行で、ベネチアのユースホステルに同宿したイギリス青年から発せられたある言葉がきっかけであった。
そのとき彼は、これからエーゲ海をアイランドホッピング(島々を渡りながら大洋を横断すること)しながらトルコへ渡る、と語った。
私は、この
「アイランドホッピング」
という言葉に限りない自由とロマンを感じ、
「いつか自分もそんな旅をしてみたい…」
と夢想したのである。
その数年後、実際に私はエーゲ海をアイランドホッピングしていた。
こうして立ち寄った島のひとつが、このサントリーニ島というわけだ。
この島に初めて降り立ったとき、その特異な景観にまず目を見張った。
切り立った崖のてっぺんにへばりつくように白い家々が固まっている。
白い家々は白い村や町を形成し、そんな白い村や町の中を歩くと、細い路地が幾重にも入り組んで、さながら迷宮のようである。
あちらこちらの辻を曲がると思いがけなく眼下に紺碧のエーゲ海が現れ、はっと驚かされたりする。
私はこうした白い迷宮を心ゆくまでさまよった後、海に向かって張り出したベネチア時代の古い砦の跡にたたずみ、いつまでも時間を忘れてエーゲ海を見下ろしていた。
ふと両手を広げて、胸の前で大きな円をつくってみると、その中に眼下のエーゲ海がすっぽりと収まった。
そのとき私は、自分が海の神ポセイドンになったような気がした。
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