エーゲ海 ナクソス島の思い出を描く
サントリーニ島への途中にある島
ナクソス島は、エーゲ海中部、キクラデス諸島最大の島である。
アテネのピレウスからサントリーニ島へ向かう船に乗ると、パロス島、ナクソス島、イオス島と順番に寄港して、約8時間近くかけてサントリーニ島に到着する。
私がいつも使うブルースターフェリーは、ピレウスの港を夕方出航するので、サントリーニ島に到着するのは深夜1時半である。
以前、そんなふうにして深夜サントリーニ島の港に降り立ったことがあった。
「こんな時間に到着しても宿にはありつけないだろうな…朝までここで過ごすか…」
と、深夜の波止場で途方に暮れていると、なんとそんな時間に、客引きがやって着て、バイクの荷台に乗せてホテルまで連れて行ってくれた。
部屋に入って、ベッドに身体を横たえたのは、深夜というか、もはや早朝4時近かったので、
「さすがに今夜の一泊分は取られないだろう…」
と、タカをくくっていたら、それは甘かった。
数日後チェックアウトの際に請求書を見ると、深夜というか早朝チェックインした最初の一泊分もしっかり宿代を請求されていたのである。
以前、そんなことがあったので、深夜にサントリーニに着いても何もいいことがないのは、わかっている。
いっそ、その手前のナクソス島で下船して、23時近くにはなるがナクソスの町で一泊して、次の日にゆっくりサントリーニ島へ向かおう…という気になった。
ナクソス島で途中下船
深夜近い23時にフェリーがナクソスの港に近づくと、月明かりの下、ナクソス島のシンボルであるアポロ神殿の門がそびえているのが見えた。
港に降り立つと、地元人とおぼしき人たちは、めいめいに迎えの車に乗り込んで、闇に沈む町の中へ消えて行った。
静まり返った波止場には私たち夫婦だけがポツンと取り残された。
どうやらこんな時間に到着する観光客は他にいないもようだ。
しばらく途方に暮れていると、客引きらしき男が寄ってきた。
バイクのうしろにリヤカーのような箱をつけている。
男はどうやら、それに乗れ!と言っているようだ。
私たちは、一抹の不安を抱えつつも他になす術も無く、その男に従った。
バイクに取り付けられた手製の箱の乗り心地は、決して心地よいものではなかった。
石畳の路面の振動がもろに尻に伝わるので、箱が大きくバウンドするたびに、こちらも尻を浮き上がらせなければならなかった。
そんな状態で、私たちは、人っ子一人いない漆黒の町の中をひた走った。
小さな路地をいくつも曲がり、少し広めの通りに出たところで、バイクは停止した。
そこは、家族経営の小さな宿だった。
静まり返った宿の帳場で手続きをすませ、時計がすでに深夜0時をまわろうとする頃、私達はようやく一夜の床を得ることができた。
翌朝、目を覚ましテラスの外に出てみて、私は自分の目を疑った。
青く塗られたテラスにはまばゆいばかりのエーゲ海の陽光が降り注ぎ、その向こうにはエーゲ海の島特有の白い町並みが広がっていた。
それはまるで、闇夜に沈んでいた町が、太陽の光を浴びていっせいに息を吹き替えしたかのようであった。
ナクソス島の思い出を描く
そんなナクソス島の思い出を、帰国後に絵に描いてみた。
使用した画材は、キャンソンボードにホルベインの透明水彩。
ナクソス島で泊まった小さな宿をイメージしたものだ。